イラスト・ノート

イラスト描き、山田唄の制作物を載せて行きます

初級者向け講座13「構図作りの基礎、凄い絵って何か」

 こんにちは。六月も末日、梅雨の時期もそろそろ終わりでございますね。今年は全国的に梅雨らしい梅雨になったようで、水不足などにならずほっとしております。次は夏と台風ですね…ほんと、日本に産まれてしまった宿命かもしれませんけれど、この天候に依存する文化ちくしょうめ。(八つ当たり。

 今回から、構図の作り方に絡めてぼちぼち一枚絵や立ち絵を描く時の考え方、私的ノウハウに触れて行ければと思います。

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 まず、今回は基礎ということで、絵を考えるための基本理念について語らせて頂きましょうか…。

 

 上手い絵をぱっと見た時、「うわっ、凄い!」と感じる気持ちの基として、結構な割合で絡んでくるのが「私にはこんな凄いの描けない!」という気持ちかなと思います。そこをより掘り下げていくと、大体次の二つに分類されるかなと思います。

 1.構図が複雑すぎて真似できない

 2.描写が高度(リアルであったり複雑であったり)して真似できない

 この「真似できない」と言う感情が多くの場合尊敬や、その先まで行ってしまうと苦手意識となってその絵に対する畏敬に代わるわけですが、実際の所どんなに複雑でリアルなイラストであったとしても、それを真似できないということはほぼ在り得ません。

 絵具の滲みを活かしているような偶発的な要素を絡めた絵である場合その限りではないのですが、多くの場合、絵の「凄さ」とは、どんな描き手にとっても”再現可能”なものです。

 

 では、なぜ再現可能なものを一見して「真似できない」と思ってしまうのか? ここに構図の持つ威力があると、私は思っております。

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 例えばこちらのキャラクターイラスト。私が過去描いたものですが、一度これを「ご自身で実際にまるっきり正確に模写するもの」という前提で見てみてください。…めんどくさいですよね。或いは、簡単に描き写すことなら出来るだろうけど、色まで付けるのは…とか、アレンジしても大丈夫なら描けるけど、まるっきり正確にと言われると…と思われるのではないかと思います。

 そこが、実は大変大きなポイント。

 

 人体のバランスなどと違い、構図はミリ単位で調整しようと思わなくても良いものです。つまり、まるっきり正確になんて描かなくても良い。色がある程度違っても、色相のバランスさえ取れていれば見た目の印象などほぼ変わりません。そうやって前提を変えてみてみると、どんなイラストも真似できそうな気がしてきませんか?

 そこで更に考えてみます。なぜ人は絵を見た時、それを丸っきり正確に描かなければいけないという意識が働いてしまうのか。

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 そこに、今日日本のエンターテイメント業界、ひいては他の業界全体の抱える病巣があると私は考えているのですが、現在の日本ではとにかく新しいものは「悪」とされることが多い。人と同じであることが最も良い事とされている。

 もっと言ってしまえば、有力者と同じ思考や趣向を持つ人間は、それだけで優遇されるべきである、という考え方が蔓延してしまっていますね。

 以前も個性の話をしたときちらっと触れましたが、日本人が創作という物に向かう時、最も重視するのは均質的なクオリティです。つまり、どんなに凄い絵が描けようとも、次に描く時にも同じクオリティで描けなければそれは実力ではないと思ってしまう。それもある意味で正しいと言えるのですが、そもそも創作というものは人間の創造性を表現するために産まれた分野です。絵を描いていて、「ここは仕様書と違う造型、色使い、構成にしたほうが絶対良くなる」という確信があるなら、どんどん変更を加えて行くべき、と私は考えます。

 ただ、仕事の場合は仕様書通りに描くことがほぼ前提となる。ここにあって、「仕事の為の絵」と「表現の為の絵」とは本質的に異なるのです。

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 若干元の命題とそれましたが、早い話が、「仕事でない限り自分の気持ち良いように描くのが良い」のです。まず第一に、凄いと感じた絵にはどこが凄いと感じたかという「要因」が必ず含まれている物です。そこさえ採用して他を変えてしまっても、その絵の凄さは変わらないはずですし、そうやって新しい絵を作ってしまえればそれは「オリジナル」と言っていいものになるはずですよね。

 そして、全体を真似るのは無理でも一部の凄い要因を写し取るスキルを得る事はそれほど難しいことではありません。

 

 笑顔が眩しい絵だ! → 笑顔を描くスキルを身に着ける

 背景の神殿の構造が美しい絵だ! →神殿を正しい構造で描くスキルを身に着ける

 

 そうして一つ一つに対処していくことで、確実に自分のスキルも上がることになります。そして、複数のスキルを組み合わせて幾つもの見所を持つ絵を描くことで、更にその絵の魅力は掛け算されて増していくことになります。

 

 まず、凄い絵を見つけた時には、自分がその絵の「どこを凄いと思ったか」を考える癖をつけるようにして頂けると良いのではないかなと思います。そうやって理屈で解明する限り、絵は実際にはどんなに素晴らしいものでもそれを構成する要素は単純であることが分かってくると思います。

 そして、ある時を境に、絵を「鑑賞物」としてではなく、「構造物」として理解しようとする思考に切り替わって行くのを感じて頂けると思います。そこまで行ければもう言う事はありません。ご自身の創意と工夫だけで、どんなに複雑でリアルな絵も描けるようになって行く事でしょう。

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 今回は新しいセクションに入る際の常として、具体的な運用法ではなく簡単な考え方のさわりにだけ触れさせて頂きました。次回の俺講座から、より実務的な構図の作り方について述べさせて頂ければと思います。

 では、また次回。